2017年6月4日
文部科学省「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成29年3月14日改訂)における
性的指向・性自認の記載について
性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連連合会
(略称:LGBT法連合会)
共同代表一同
(団体URL:https://lgbtetc.jp/)
文部科学省は、2017年3月14日に、「いじめ防止対策推進法」に基づく「いじめの防止等のための基本的な方針」(以下、方針という)の改訂を行い、性的指向・性自認に関する記載を盛り込んだ。2012年8月28日に閣議決定された内閣府「自殺総合対策大綱」、2015年の文部科学省児童生徒課長通知「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」、翌2016年の「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」に続き教育行政・教職員の対応を促すものであり、一定の評価ができる。ただ、あくまで記載が別添資料の中に留まっているほか、性的指向・性自認に関するいじめについての具体的な対応に関する記載がないため、現場における十分な取り組みが担保されるかは不透明であり、また各自治体・教育委員会によって取り組みに大きな格差が生じないか、懸念が残るところである。
この「方針」の別添資料2『学校における「いじめの防止」「早期発見」「いじめに対する措置のポイント」』の「いじめが生まれる背景と指導上の注意」では、「教職員による『いじめられる側にも問題がある』という認識や発言」が「いじめられている児童生徒を孤立化させ、いじめを深刻化する」とした上で、「性同一性障害や性的指向・性自認に係る児童生徒に対するいじめを防止するため、性同一性障害や性的指向・性自認について、教職員への正しい理解の促進や、学校として必要な対応について周知する」と明記した。そして、性的指向・性自認以外の課題も含め、「学校として特に配慮が必要な児童生徒については、日常的に児童生徒の特性を踏まえた適切な支援をおこなうとともに、保護者の連携、周囲の児童生徒に対する必要な指導を組織的に行う」としている。
性的指向・性自認に基づくいじめについては、かねてより研究機関や当事者団体等からその深刻さが指摘されてきた。2015年に国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが実施したオンライン調査(25歳未満の回答者458人のデータによる)によれば、学校で性的指向及び性自認に基づく暴言等を経験した子どもは8割を超えており、その約3割は教師からの発言であった。加えて、このような暴言に対して教師の6割が特に反応をせず、放置していたことも明らかにされている。今回の方針の別添2では、いじめ対処への総論的な記述として「教職員の不適切な言動が,児童生徒を傷つけたり、他の児童生徒によるいじめを助長したりすることのないよう指導のあり方には細心の注意を払う」よう警告するとともに、「何がいじめなのかを具体的に列挙し掲示する、相談窓口を周知する」等といった方策が示されている。また、ソーシャルスキルトレーニングやピアサポートが注に例示されていることは特筆すべきである。上述の学校現場の実態を踏まえ、性的指向・性自認に関するいじめ対策としても、これらの方策に沿って、「性的指向・性自認に関するいじめとは何か。それがなぜ許されないか」等についての授業、「全教職員への性的指向・性自認に関する研修実施」など、性的指向・性自認に関する具体策を、各自治体と教育委員会・学校が、着実に実行するよう、注視し促す必要がある。
この方針に明記されているように、教育分野におけるいじめは、教育を受ける権利の著しい侵害であるとともに、心身の成長・人格形成さらには生命や身体を脅かすものである。今回の改訂を踏まえ、私たちは全国の関係団体・支援者・専門家と連携し、毅然とした対応を求めていく。その上で、この方針の冒頭にも「いじめと様々なハラスメントが同じ地平で起こる」との記載があることを改めて踏まえ、さまざまな分野に広がっている「SOGIハラ」(性的指向・性自認にもとづく差別的言動等)や性的指向・性自認に関する差別と困難の解消に向け、具体的かつ、実効性のある法律や各種制度の早期実現を今後も強く期待するものである。
以上