2024年 7月 11日
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の3条1項5号規定に関する広島高等裁判所の決定について
一般社団法人 性的指向および性自認等により
困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会(略称:LGBT法連合会)
理事一同
(団体 URL:https://lgbtetc.jp/)
報道などによれば、2024年7月10日に、広島高等裁判所は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という)の3条1項5号(以下「5号要件」という)について、5号要件に該当するために性別適合手術の実施が常に必要であると解釈するならば違憲の疑いが強いとして、性別適合手術を受けていない者の法的な性別変更を認めた。2023年10月の最高裁判所の決定によって、トランスジェンダー男性については手術を受けなくとも法的な性別変更が実質的に可能となっていたが、今般の広島高等裁判所の決定により、トランスジェンダー女性についても、手術を受けずに法的な性別変更の道が開けた点は前進であると評価できる。ただし、最高裁決定の趣旨に鑑みて、いくつかの課題が残っている点も指摘できる。
広島高等裁判所は、日本精神神経学会の定めた「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」において、2006年以降は、性別適合手術が必要か否かは患者によって異なるとしていることに触れている。その上で広島高等裁判所は、5号要件は、規定の目的には正当性があるが、5号要件に該当するために性別適合手術の実施が常に必要であると解釈するならば、「憲法13条が保障する自己の意に反して身体への侵襲を受けない自由を放棄して」「身体の侵襲を伴う同手術を甘受するか」、「性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄」するかという二者択一を迫るものであり、過剰な制約を課すものであるとして、違憲の疑いがあるとした。一方、特例法の5号要件は、「必ずしも他の性別に係る外性器に近似するものそのものが備わっていない限り満たされないというものではなく」とし、「近しい外見を有していることでも足りるもの」とした。
この広島高裁決定からは、身体への侵襲という観点等において、最高裁の決定の趣旨、あるいはその個別意見の趣旨を損なっている部分も一部に見られ、身体の状況によってホルモン療法を受けることが不可能な当事者等も念頭に、今一度最高裁決定やその個別意見の趣旨を想起する必要があると当会は考える。
なお、今後の法改正に向けた議論によって、現在最高裁の決定を受けて、法的な性別変更が可能となっている者が、法改正によってその道が閉ざされるようなことがあるとすれば、これは容認することができない。
当会は引き続き、性自認による差別によって、当事者の生活環境が損なわれ続ける状況を一歩でも改善させる取り組みを更に強め、奮闘し続ける所存である。
以上