2020年11月26日
一橋大学アウティング事件の高裁判決についての声明
一般社団法人 性的指向および性自認等により困難を抱えている
当事者等に対する法整備のための全国連連合会
(略称:LGBT法連合会)
代表理事・理事 一同
(団体URL:https://lgbtetc.jp/)
2020年11月25日、東京高等裁判所は、一橋大学アウティング事件について、転落死した大学院生の遺族の控訴を退け、大学側に安全配慮義務等の瑕疵がないものとした、一審の判決を支持した。この判決は極めて遺憾である。他方、判決文において、「アウティング」を人格権ないしプライバシー権等を著しく侵害する許されない行為であることは明らかとするとともに、当時の加害者学生の置かれた状況も、アウティングを正当化する事情とはいえないとした。
アウティングが人格権やプライバシー権の侵害であると明らかにされたことは一定評価できるものであり、被害者学生から加害者学生への恋愛感情の告白が、アウティングを正当化する事情とは言えないとしたことも、告白と加害行為を切り分けて考えるという基本的な事項が確認されたものとして一定評価できる。
判決では、被害学生に対する大学の対応について、不合理なものとは言えないとして遺族側の訴えを退けている。しかしながら、アウティングというハラスメントを受けた被害者の精神状況を十分に踏まえた上で、大学側の対応を吟味したものなのかについては、疑義を持たざるを得ない。被害者が適切な支援を受けることができていたかどうかを十分に斟酌できなければ、今後も同様の事件が起き得ると危惧する。
さらに、一部報道機関によれば、遺族側は大学側との和解協議において、謝罪や賠償を要求せず、アウティングについての学内の啓発や再発防止を提案したものの、大学がこれを受け入れなかったとされるが、報道通りであれば今回の判決をもって一橋大学が何ら対応を講じないことは断じて許されることではない。
2020年11月13日に文部科学省は、改正労働施策総合推進法に基づく、性的指向・性自認に関するハラスメントやアウティングを含むハラスメント対応について、同年3月26日に文部科学省から事務連絡も出ているにもかかわらず、各大学の規定の整備状況に不備が散見されることから、全国の各大学の長に対して、適切な対応を取るよう通知している。今回のケースは学生間の事件であり、直接的に同法に関係するわけではないが、学生間の事案に対する対応の基準と、教職員間、教職員と学生間のハラスメント対応の基準に隔たりがあることは運用上合理的ではなく、これらを同様に取り扱っている機関も見受けられる。今一度法に基づく範囲はもとより、関連する対応も含めて、規定やそれに基づく取り組みに不備がないか、点検が必要となることを併せて指摘したい。
関連して、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構は『大学機関別認証評価 大学評価基準』(2004年10月(2018年3月改訂))において、学生支援に関する基準4−2として「ハラスメント等に関する相談・助言体制等が整備され」ているか否か等を判断の指針として明示している。学生をはじめ構成員だれもが、アウティング被害を受けることなく安心して勉学・業務に打ち込める環境の整備は、公的支援を受ける大学の使命・社会的責任として必須事項であることを、重ねて指摘する。
当会は、二度とこのような事件が起こることのないよう、学生間のハラスメント被害が救済対象となる法整備の必要性を強く訴えるとともに、全力で取り組みを進めていく。同時に、全国の大学をはじめとする関係各所にも対応を求めるものである。
以上