2023月 7月 12日
経済産業省におけるトランスジェンダーの施設利用に
関する最高裁判所の判決についての声明
一般社団法人 性的指向および性自認等により
困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会(略称:LGBT法連合会)
理事一同
(団体 URL:https://lgbtetc.jp/)
2023年7月11日、最高裁判所(以下「最高裁」)は、経済産業省(以下、経産省)の職員が性自認に基づいた女性トイレの利用を制限されたことについて、国を相手にそれらの取消し等を求めた裁判において、制限を是認した人事院の対応を違法であると判断した。判決は、人事院の判定は、具体的事情を踏まえることなく、当事者ではない職員に対する配慮を過度に重視し、当事者の不利益を不当に軽視したものであり、著しく妥当性を欠くとした。具体的事情に即し、当事者の不利益を不当に軽視しない本判決を、当会は評価するものである。
2019年の東京地裁判決では、本件の個別具体的な状況を踏まえれば、「トイレの利用制限」は重要な法的利益を制約するものであり、違法であると判ずると同時に、トイレの利用制限等の理由に関する経産省の主張について「抽象的なもの」にとどまると示した。その後、2021年5月27日の東京高等裁判所では、経産省は、他の女性職員の性的羞恥心や違和感を考慮し、原告を含む全職員にとっての適切な職場環境を構築する責任を負っており、それを踏まえた上で当該職員に下された女性トイレ使用に関する制限は、人事院の裁量権の範囲を逸脱し、またはその濫用があったとはいえない、と判断していた。これを最高裁は、是認することはできないとし、原告の日常的な不利益や、具体的事情に即して、人事院の判断は著しく妥当性を欠いたものであるとした。
一方、今回の判決に対して、インターネット・SNS上などでは、まさに「具体的事情」を踏まえず、補足意見でも言葉として挙げられているような「感覚的」「抽象的」に捉える議論が横行しており、甚だ遺憾であると言わざるを得ない。補足意見で指摘されている通り、「個人がその真に自認する性別に則した社会生活を送ることを尊重することは重要な法益」であることは強調しすぎることはない。仮になんらかの調整が必要なケースにおいても、当事者の利害を軽視せず、客観的かつ具体的に調整が図られるべきである。
人権救済の最後の砦たる最高裁の判決は、性自認をめぐる歪められた認知や、トランスジェンダーに対する偏見やバッシング、また多くがそのような誤った認識に基づくと受け止められるLGBT理解増進法案の審議過程での質疑を踏まえると、あらためて意義あるものであると評価できる。今回の判決から、今後の「理解増進法」の運用にあたっても、当事者の具体的事情に即し、感覚的、抽象的な議論を排した上で、当事者の被る不利益や困難と真摯に向き合った議論が、より一層求められるようになった。当会は引き続き各方面の関係者・関係団体と共に議論を重ね、一人ひとりの性自認に基づいた人生において、多様性を尊重する共生社会の実現に向けて、人権が保障、確立されるよう取り組みを進めていく。
以上