2016年5月27日
性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する
法整備のための全国連連合会(略称:LGBT法連合会)
共同代表一同
1.はじめに
今年に入り、性的指向や性自認に関する課題(いわゆる「LGBT」を含む)に関し、各党が相次いで考え方を発表するなど、積極的な検討がなされている。
2016年1月19日に、旧民主党が「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案(仮称)骨子(案)(たたき台)」を発表した。また、1月27日「LGBTに関する課題を考える議員連盟」は、立法検討ワーキングチームを設置し、翌日の28日に第一回会合を開いた。この立法検討ワーキングチームでは、この法案骨子のたたき台について議論が行われている。
一方で、自由民主党は2016年4月27日に「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」を取りまとめ、33項目の政府への要望、および「性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案概要」を取りまとめた。
その後、2016年5月27日に民進党、日本共産党、社会民主党、生活の党と山本太郎となかまたちは「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」を国会に提出、自由民主党も法案提出には至っていないが、既に「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案要綱」を取りまとめている。
LGBT法連合会としては、普遍的な人権課題である性的指向や性自認に関する議論が、政治の場で始まったことを歓迎する。
LGBT法連合会は既に、昨年4月5日に「性的指向および性自認を理由とするわたしたちが社会で直面する困難のリスト」を発表し、その解決策として「性的指向および性自認等による差別の解消、ならびに差別を受けた者の支援のための法律に対する私たちの考え方」を発表した。辛く悲しい困難の解決のため、当事者の願いと祈りを込めて当連合会が発表した考え方に基づき、各党の案について下記の通り見解を表明する。
2.各案に対する見解
(1)自由民主党の「性的指向又は性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案要綱」について
1) 私たちの認識と考え
・自由民主党の法案が、基本理念において、性的指向及び性同一性に関する国民の理解増進に関する施策について、全ての国民が相互に人格と個性を尊重し合う社会の実現に資することを旨として行われなければならない、と謳っている点は概ね評価できる。誰がマイノリティなのかということではなく、全ての人が性的指向や性自認に関わらずに尊重されることは望ましい社会の在り方である。ただ、「基本的な考え方」に記載された内容には、懸念のある箇所も散見される。
・性同一性という用語については、いわゆる「身体の性」と「心の性」が同一か否かといった二分法的概念として受け止められる懸念があり、加えていわゆる「Xジェンダー」の人びとなどが適切に理解されないことを危惧する。
・また、法案には、国、地方公共団体の施策策定、実施の責務、国民の責務(努力規定)が設けられており、前向きに受け止めることができる。他方で、基本計画の策定は国のみにとどまっており、当事者のニーズ把握についても特に記載がない。
・「性的指向・性自認が典型的でない方々が抱える困難および当委員会での議論」は、当連合会の「困難リスト」に言及しており、自民党の施策は当連合会が訴える困難を一定程度踏まえたものであると考えられる。当連合会の独自分析では、「困難リスト」の項目の約6割に関して対応が言及されているが、実際に施策がなされると思われるのは約1割に留まる。また、具体策を運用に委ねている点に,実効性や施策の継続性の観点から懸念があり、広範囲な困難の解消につながるものとは言い難い。
・差別禁止、差別をなくすことに関する言及が乏しいため、実際に企業や自治体から差別的取扱いを受けた際の対応が必ずしも担保されていない。また、性自認等に関するお手洗いや更衣室など施設利用への対応に関して記載がなく、学校・職場・公共施設で頻発している困難への対応が示されていない。
・また、自由民主党の33項目の要望内容のうち、12の性的指向・性自認に関する嫌がらせをセクシュアル・ハラスメントと解釈する、については、既に第172回労働政策審議会雇用均等分科会に提出されている資料において、セクシュアル・ハラスメントを受けるのは性的指向・性自認を問わない旨に変容している。これにより当初の自由民主党の要望ではセクハラ防止の対象となるはずだった「ホモ」「オカマ」「レズ」「オトコオンナ」などの差別的言動(いじめ・嫌がらせ)は「セクハラ」に解釈されないものと考えられる。そのため、他の項目も含めて着実に自由民主党の要望が実現されるのか危惧されるところであり、政策実現過程を注視する必要がある。
2) 法案に対して求めるポイント
・「性的指向と性自認による差別は許されない」ことを明記する。
・性自認に関する施設利用その他への調整に向けた環境整備を行う。
・全国に住まう当事者の困難に対応するため、全国全ての自治体が一定水準の施策を行うことを担保するとともに、定期的な施策の点検評価を行うことやその際の当事者の意見反映を担保する。
・「性同一性」ではなく「性自認」の用語を用いる。
*なお公明党は本日「性的指向と性自認に関する立法(いわゆる性的マイノリティ法案)と「性同一性障害特例法」についてのわが党の基本的な考え方」を発表している。詳しくは内容の精査が必要だが、合理的配慮に向けた環境整備、当事者の声を踏まえること、地方自治体との連携などが記載されており、当事者の立場に立った立法への取り組みを期待するものである。
(2)民進党、社会民主党、日本共産党、生活の党と山本太郎となかまたちの「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」について
1) 私たちの認識と考え
・民進党、日本共産党、社会民主党、生活の党と山本太郎となかまたちの「差別解消法」は,差別解消を謳った基本理念はもちろんのこと、国・地方公共団体の基本計画策定、差別禁止規定、ハラスメント防止規定、合理的配慮義務、地方公共団体の相談体制の整備など、LGBT法連合会が264項目の「困難リスト」に挙げた項目のうち、独自分析では9割以上が法によって何らか対応が考えられ、約4割は困難の解消が期待できるものであるなど、困難の実効性ある解決策として発表した「LGBT差別禁止法への考え方(略称)」に近いものであり、大いに評価できる内容である。
・全国の当事者の困難の解消,いじめや差別をなくすこと,自死を少なくすること等に関して、法律の明文を持って対応を行うことが担保されている
・ただ、ハラスメント対策の領域が狭く,自治体における相談センターの設置が明記されていない等、一部に課題もある。
2) 法案に対して求めるポイント
・学校、職場以外でのハラスメントに関する施策を追加する。
・地方自治体に相談センターを設置する。
以上が各党案に対する見解である。
オリンピック開催が4年後に控える中、オリンピック憲章のオリンピズムの根本原則に、「性的指向」などの理由によるいかなる種類の差別も禁止、権利および自由の確実な享受がそれぞれ謳われていること、また日本が国連の場では,SOGI(性的指向・性自認)人権決議(2011,2014)に賛同し,いわゆる「コア・グループ」の一員としてSOGI差別禁止の国際規範形成に積極的な役割を果たしていることなどを重く受け止める必要がある。国際的な注目の集まる大舞台に備え、オリンピック開催国、SOGI人権決議賛同国として、国際公約とも言うべき差別禁止法の制定が、今こそ求められている。
今後LGBT法連合会は、普遍的な人権課題である性的指向や性自認に関する法整備について、当事者の困難解消に資する内容とすべく、当事者の立場に立った法整備を求めるものである。
以上
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共生ネット事務所内 LGBT法連合会 担当:綱島
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