2020年9月25日
日本学術会議による提言
「性的マイノリティの権利保障を目指して(Ⅱ)
―トランスジェンダーの尊厳を保障するための法整備に向けて―」について
性的指向および性自認等により困難を抱えている
当事者等に対する法整備のための全国連連合会
(略称:LGBT法連合会)
共同代表一同
(団体URL:https://lgbtetc.jp/)
2020年9月23日、日本学術会議法学委員会「社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会」は、提言「性的マイノリティの権利保障を目指して(Ⅱ)―トランスジェンダーの尊厳を保障するための法整備に向けて―」(以下、本提言)を発表した。日本学術会議の第297回幹事会の議決を経た本提言では1.性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下、特例法)に代わる新法の制定、2.性的マイノリティの権利保障一般について定めた根拠法(差別及びハラスメントの禁止含む)の制定、3.包括的な差別禁止法の制定、の3項目が提言されている。当会は賛同団体との議論を踏まえ、2020年4月に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の改正に対する基本方針」を取りまとめているが、本提言はこの当会の方針、すなわち、特例法の要件については人権侵害の懸念が極めて強い手術要件を中心に撤廃するべきであるという考えと、合致するものである。また、当会が求め続けている性的指向・性自認に関する差別禁止法制定についても提言されており、大いに評価できる。日本の全分野の科学者を代表する機関であり、内閣総理大臣所轄の機関でもある日本学術会議の幹事会の議決を経た本提言を、関係機関は重く受けとめるべきである。
本提言では、1の特例法に代わる新法については、「人権モデル」に則った性別変更手続の保障が必須であるとし、現行特例法は「国際疾病分類」における扱いの動向も踏まえ廃止することとし、特例法に代わる新法「性別記載の変更手続に関する法律(仮称)」の制定を提言している。新法においては、性別変更にあたって、いわゆる「生殖不能要件」等を要しないものとすべきであるとしている。2の性的マイノリティに関する根拠法の制定については(1)「性的指向・性自認・ジェンダー表現・性的特徴」に基づく差別およびハラスメントの禁止、(2)基本計画の策定とその政策評価、(3)人権確保制度の確立を内容として挙げており、立法府での速やかな法律制定が望まれる。3の包括的な差別禁止法の制定については、複合的かつ交差的な差別の実態を踏まえ、国際人権基準に適った法の制定を提言している。
これらはトランスジェンダーを取り巻く困難な環境の可視化やトランス女性排除の動きを踏まえており、特に特例法に関連しては、諸外国の例などを挙げて丁寧に性別変更要件の廃止による社会的混乱は回避可能であるとしている点で注目すべきである。また、そのような混乱や問題が「身体への侵襲を受けない権利」を否定する根拠にはなり得ないとした点は特に重く受けとめられるべきである。一方、2017年の日本学術会議の提言「性的マイノリティの権利保障をめざして―婚姻・教育・労働を中心に―」に続き、再び差別禁止規定を含む根拠法の制定が提言されたことは、極めて重く受け止められるべきであるとともに、意識啓発等の重要性を認めつつも、これが人権施策の前提条件とはなり得ず、人権保障の履行確保制度と同時に取組を進めてはじめて効果をもつと指摘している点は、広く周知徹底されるべきである。
当会は、本提言を踏まえ、性的指向・性自認に関する困難を解消する各種法制度を整備する必要性を改めて確信するとともに、法整備に向けた活動をより強力に展開していく。
以上