2018年5月15日
東京都の条例のポイントに対するLGBT法連合会の受け止めについて
性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する
法整備のための全国連連合会 (略称:LGBT法連合会) 共同代表一同
(団体URL:https://lgbtetc.jp/)
5月11日に東京都は、「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念実現のための条例(仮称)〜条例のポイント〜」を発表した。2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて「性的マイノリティ(LGBT等)を理由とする差別のない東京の実現」を掲げた条例の制定・施行は、社会に良きインパクトを与えることが期待されるとともに、LGBT法連合会の主張にも沿うものであり、「差別的取扱いの解消に向け、基本計画の策定と区市町村との協力」を条例に明記することと合わせ、一定の評価ができる。一方で、差別やハラスメントの抑止や、差別やハラスメントを受けた人の救済や回復につながる施策が記載されておらず、実効的な条例となるか不明瞭な点に懸念が残る。
東京都が発表した新条例のポイントには、「差別の解消と理解促進は、どちらが欠けても不十分ないわば車の両輪」であるとし、企業等とのキャンペーンの活用や、相談窓口の一元化、区市町村との連携を掲げている。一方で、啓発や相談対応以外の記載はなく、現行の人権に関する取り組みとどのように異なるものとなるのか、明らかではない。
LGBT法連合会は、法制度においてはその対象や被害者となる「誰が」に焦点を当てる「LGBT」ではなく、「何の」問題かに焦点を当てる「性的指向・性自認(SOGI)」を用いるよう提言してきた。その理由は、「LGBT」の文言を使った法制度は①「LGBT」であることをカミングアウトすることが法制度を使う要件となってしまうこと、②誰が「LGBT」であるかは誰にも証明することができないにもかかわらず、その不可能なことが要件となる可能性や、「LGBT」や「性的マイノリティ」のアイデンティティを持たない人が制度を使えなくなってしまう恐れがあること、などである。しかし、識者の意見の中には、「性自認」や「性的指向」の定義が当事者の疎外感覚につながるという、「LGBT」との混同とも受け止められる記載もあり、今後、条文でどのように定義されるか懸念も抱く。「性自認や性的指向等を理由とする差別(および差別的取扱い)」という形で課題や具体的措置が条文で明記されるよう、求める。
「差別が許されないこと」「差別解消」「差別禁止」の言葉の使い方が不明瞭である点も懸念材料である。差別が許されないことを東京都が宣言することは、東京都民や都内事業所はもとより、政府や日本社会へも大きな波及効果があり、具体的な不当な扱いやハラスメントの抑止につながる可能性があると評価できる。ただ、差別を禁止したり是正を促す条項がなければ、実際に不当な差別的扱いやハラスメントの抑止に向けた実効力が乏しく、差別やハラスメントを受けた人への救済や身分などの回復、再発防止につながらない。東京都内のいくつかの区市町村の条例や、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会、また各種団体が「差別禁止」を掲げる中で、仮に東京都だけがこの文言を掲げないとすればその点も不釣り合いである。また、仮に差別禁止を掲げない東京都の条例が施行されることになれば、区市町村の差別禁止を掲げる条例の阻害とならないかも懸念される点である。
東京都が条例を制定することには大きなインパクトがあり、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、重要な転換点となることが期待される。だからこそ、条例の中身如何によっては、具体的な当事者への実効性や社会への影響力も変わることが予測され、大会の成功をも左右することも考えられる。LGBT法連合会は差別のない社会の構築や、国の法整備の実現に向けて、関係各位と連携による取り組みも視野に、都条例制定の動向を注視していく。
以上